綾音はあっという間にパパとも言うようになり、ことばが増えた。
綾香と裕二は驚きの連続だった。

ある日の昼下がり、裕二と綾香は綾音を連れて公園に遊びに来ていた。
おもちゃで綾音はご機嫌に遊んでいた。
「ほら、綾音、これもあるぞ」
何気なく裕二が綾音におもちゃを渡した。
すると綾音が突然口を開いた。
「ありあと。ゆーちゃんせんせー」
裕二と綾香は言葉を飲んだ。
綾音はせっせとおもちゃで遊んでいる。
「今…今…」
裕二は続く言葉が出ない。
「ゆーちゃんせんせーて…」
綾香が続いた。
2人の間に沈黙が流れる。
まさか、まさか…そんなはずは…
と、思いつつ、綾香が言った。
「かをりちゃん…?」
裕二は驚いて綾香を振り返った。
すると間髪入れずに綾音が「あーい」と手を挙げた。
「かをりちゃん…?綾音…」
綾香も自分の言葉と綾音の返事に信じられなくてそれ以上は何も言えなかった。
裕二の目から涙がこぼれ、はたはたと地面に落ちた。
裕二は綾音を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
綾音は遊んでいたのを邪魔されたのでいやー!とじだばたと抵抗する。
綾音を抱きしめ、泣き崩れる裕二の姿に綾香も涙が溢れて止まらなかった。
「平沢…!」
裕二がやっと言ったのはその一言だった。
裕二の抱きしめが続いてついに綾音はぎゃーん!と泣き始めた。
「裕二君、離してあげて…」
綾香の言葉にハッとして手を離す。
「ママー!」
と綾香に抱っこをせがむ。
綾香は綾音を見て微笑んで裕二に言った。
「かをりちゃんは私達の天使になって帰ってきてくれたのよ。裕二君」
「…うん」
まだ涙の止まらない裕二は小さく頷いた。
「かをりちゃんの生は終わってしまったけれど、ちゃんと私達の元に戻ってきてくれたのよ。かをりちゃんはやっぱりかをりちゃんね。裕二君が大好きなのよ」
「うん」
綾音を見て裕二は微笑んだ。
「良い人生を歩ませてあげなくちゃな」
綾香も涙交じりに微笑んだ。
「そうだね」