泣いている裕二のベッドに座って綾香が優しく抱きしめる。
裕二はそのまま涙が止まらなかった。

その時母と主治医がやってきた。

「…どうしたのかな?」

長い髪を無造作に束ねた女医が泣いている裕二に尋ねる。

裕二は綾香から身を離し、言った。

「俺、生きてていいんですね…」

「勿論よ!」

先生は大声で言った。

「死んでいい人間なんていないわ。あなたはちょっと迷ってしまっただけよ」

この先生怒ってるのかしら?
何か大声で苦手はタイプかも……

綾香は不審な目で女医を見る。

女医は気づいているのかいないのか話を続けた。

「入院する?精神科で落ち着くまで…」

裕二はそれをさえぎった。

「いえ、病院は好きじゃないから…もう、死のうとはしないから」

女医は裕二を覗き込んだ。

「そう…じゃあ仕方ないわね。精神科でもらったお薬ちゃんと飲むって約束できる?」

「はい」

力強く答えた。
綾香は裕二を見た。裕二はそんな綾香に気づき微笑んだ。
綾香は裕二の両親と顔を見合わせる。
両親はうん、とうなずいた。

「裕二君、帰ろ?」

綾香が不安そうに言うと裕二はうんとうなずいた。

その時だった。

『裕ちゃん先生、良かった、生きてね』

2人の頭にかをりの声がこだました。

裕二の両親と先生はそろって「どうしたの?」と聞いた。

裕二は窓に向かって「うん」と言った。