先生の天使

裕二の部屋を出て応接間に行く。

「これからのことは言わない方がいいと思います。」

「でも…」

「本読んだんです。うつの人は今が精一杯だって。要求してはいけないって」

母は驚いた。

「綾香ちゃん、本まで読んでくれたの?」

「…はい。うつ病ってよく分からなかったから」

母は綾香の手を取って涙を流した。

「ありがとう…ありがとうね。綾香ちゃん。裕二の彼女が貴女で良かった」

「お母さん…」

綾香も緊張が切れたかのように涙が出てきた。
2人はしばらく泣いていた。

落ち着いてきた母は綾香の手をそっと放して「ハーブティーでも飲みましょ」と立ち上がった。
綾香はまだ涙が止まらなかったがはい。と返事をした。

母が持ってきたハーブティーはいい香りがした。

「お母さん、これはカモミールですか?」

「そうなのよ。よく分かったわね」

にっこりと微笑んだ。

「この香り好きなんです」

綾香もにっこり微笑んで一口飲んだ。

「裕二の事は来週先生に相談しましょう」


「でも…」

手に持ったカップを揺らしながら言った。

「外に出ないって言ってるのに病院行ってくれるでしょうか?」


「意地でも連れて行くわ。」

「私来週は無理なんです。会社もそうそう休めないし…すいません」

ぺこりと頭を下げた。

「いいのよ。こうして来てくれるだけで…心強いわ」


その言葉に綾香は赤くなってしまった。