先生の天使

お薬をもらい、裕二の母の運転で帰路につく。

裕二は後ろの座席でおとなしくしていた。

「私も車の免許取ろうかな」

裕二の隣でボソッと言った。

「あら、綾香ちゃんは免許持ってないの?」

「はい、危ないって家族に言われて…」

するとプッと裕二が笑った。

「確かにね」

と一言。

「裕二君ひど~い!私だって本気になれば…」

そこまで言って裕二を見たらもう綾香の言葉が耳に入ってないかのように前を向いて大人しくしている。

綾香は言葉が出なくなってしまう。

でも、笑ってくれた。
大丈夫、まだ裕二君は笑える。大丈夫。


綾香は自分に言い聞かせていた。

裕二の母はそのやりとりを黙って聞いていた。


「綾香ちゃん、家、寄って行くでしょう?」

と母に言われたが

「いえ、今日は…裕二君も疲れてると思うので…」

「寄ってけ」

裕二が一言言った。

綾香は裕二の方を見ながら、「じゃあ、寄って行きます」と答えた。

裕二の母は運転が上手くて車庫にも一回で車を入れる。
凄いわ~と呑気に思っていたら「降りないの?」と裕二に言われて慌てて降りる。

家に入り、応接間で皆でお茶を飲んでいた。

「裕二君、夜はいお薬飲んで寝てね」

綾香が改めて言ったら


「うん、大丈夫」

と、返事が返ってきた。

綾香はちょっとほっとした。