美香は私の意外な答えに驚いたのか、目をまん丸に開いて私を見つめていた。


その時私の後ろで私の大好きな人の声が聞こえたんだ。


「おーい!教室戻れー時間だぞー」

「美香・・・戻ろうかぁ・・・」

「珍しいね?先生の言うコトきくなんてさ!」


良かった・・・気付かれてないや。




恋って・・・・こんなコソコソしなきゃダメなものだったっけ?

翔と付き合ってから・・・私の全てがガラッと変わって、恋がこんなに苦しいとかも、悲しいとかも、胸がキュンってするとかも・・・全て忘れてしまっていた。

翔といる時間が楽しくて・・・楽しすぎて・・・経験しなきゃいけない道のりをまだ私は歩いてなかったんだね。



私達は佐々木先生の後ろを通り抜けて教室に戻ろうとした。先生の横を通ると、私の大好きな匂いがして・・・少し口元が緩んでしまったんだ。

そんな表情を美香にも先生にも気付かれないように、行こうとした。


その時だった。

「あぁ!佐藤!ちょっとこっち来い!」


・・・・今、佐藤って呼んだ?

私の名前呼んだ?

あぁ・・・すごい感動。

私が勝手に喜びに満ちていると、「早く行きなさいよ!」って美香が私の背中を強く押したんだ。

押された勢いで前に出た私は、その勢いに任せて先生のところへ走った。


私は、走り出してから少し後ろを振り返った。

でもそこには、もう美香の姿はなかったんだ。


この些細な行動には・・・・美香の色んな想いが詰まっていたんだね。


このことを知るのはもっと後なんだ。