確かに光子は、両親の事故の経験から、土中の死体が腐りにくいことを知っていた。

しかし広義の遺体を庭に埋めたのは、捜査を撹乱するためではなかった。

「夫妻は純粋に、広義の遺体を腐敗から守りたかっただけらしいの」

今年は猛暑だった。

9月7日も例年にない暑さであった。

そこで夫妻は、腐敗から父親の遺体を守るために遺体を土に埋めたのだそうだ。

「マネキン人形を置いて発見を促したのも、広義の遺体を早く見つけてもらいたかっただけだと供述してるそうよ」

つまりトリックの成立云々は何も関係ない。

「そっちの方が自然な話かもな」

達郎は左手で、頬杖をついた。

「死亡推定時刻の計算なんて、素人にできるわけがない。夫妻の供述の方が、説得力がある」

鳥海夫妻の行動には、打算的なものなど全くなかった。

ただ単に、父親の遺体を気遣っただけだった。

「つまり、アリバイトリックの成立は偶然の産物だったんだ」