だから保険金を受け取るために、鳥海夫妻は誘拐殺人を偽装したと、達郎は言いたいのだ。

しかしあたしはどうしても解せなかった。

「あの夫婦は父親のことをとても大切にしていたのよ?」

広義が生命保険に加入した時も、保険金はいらないと反発したはず。

「それなのに、金のために父親の亡骸を林の中に放置するなんて、そんなことあり得るかしら」

「確かに息子夫婦は父親を大事にしていた。それは誰もが認めるところだ。だが、その父親がある日突然、命を絶ってしまったら、息子夫婦はどうなると思う?」

「どうなるって…」

あたしは答えることができなかった。

「恐らくあの夫婦は、父親の死によって、何かの糸が切れてしまったんじゃないかな」

達郎の言葉を受けて、あたしも考えてみた。

それまで鳥海夫妻は、広義に無償の愛を注いでいた。

しかしそれにも関わらず広義は死を選んだ。

「哲夫や光子は、広義に裏切られたと思ったのかしら」