その言葉があたしに向けられたものと気付いたのは、5秒ほど後。

達郎がこちらを向いたからだった。

「鳥海広義が助けを求めなかったのは何故かって言いたいわけ?」

‐独り言と会話の境目がわからないんだよ‐

あたしは心の中で毒づきながら、達郎の問い掛けに応じた。

「寝たきりとはいえ、声は出せたはずだよな」

「寝てたんじゃないかしら」

だから声をあげる間もなく、拉致された。

「寝てたのなら侵入者の顔は見れない。逆に侵入者は黙ってその場を立ち去ろうとするはずだ」

あー、そうか…。

「じゃ、顔見知りの犯行とか?」

拉致という強引な手段ではなく、言葉巧みに連れ出したのなら、騒ぎにはならない。

「レミには土足で家に上がり込む知り合いがいるのか?」

「あー…」

いかん、物事を断片的に考えてしまっている。

あたしはこめかみを指で揉んだ。

一方で達郎は、庭の一画に足を進めた。

そこはレンガで囲った花壇だった。