だが達郎はそれ以上不満を述べることもなく、黙って歩を進めた。

ぐるっと右回りに、客間・台所・勝手口・風呂場の順でのぞいてゆく。

その姿はどう見ても不審者。

こりゃ他人に見られたら間違なく通報されるな。

そう思ったあたしは警察手帳を取り出して、万が一の事態に備えた。

そんなあたしの気苦労も知らずに、達郎はどんどん歩いてゆく。

足を止めたのは、鳥海家の庭に出てからだった。

庭の広さは10坪ほど。

きちんと手入れのされた庭で、雑草の類はほとんどない。

「シラカバにイタヤカエデか」

植わっている2本の庭木を見て、達郎はつぶやいた。

そばには物干し台があり、物干し竿にかかった洗濯物が、残暑の陽射しを受けている。

「こっちが鳥海広義の部屋になるんだな」

左手方向を見ながら達郎は言った。

そこは夫婦の寝室と同じく、雨戸で閉ざされていた。

「垣根を挟んだお隣さんか。やっぱり、騒げば聞こえたんじゃないかな」