「何も起こらなかったって…現に鳥海広義は拉致されているのよ?」

広義の状態については、先ほど仁藤から聞いたばかりだ。

1人で外出できる体でなければ、何者かに拉致されたと考えるしかない。

「そこなんだけどさ」

そう言いながら達郎は、鳥海家の敷地へと入っていった。

「ちょっと達郎!」

お願いだから不法侵入はやめてー!

しかしそう訴えたところでやめる男ではない。

あたしは渋々達郎の後を追った。

「夫婦の寝室は…」

「こっちよ」

鳥海家の間取りは北島警視から教わっていた。

40坪ほどの敷地に建てられた平屋の日本家屋で、玄関から右へ回り込めばすぐに夫婦の寝室だ。

何者かの侵入口となった鳥海夫妻の寝室は雨戸で閉ざされていた。

「これじゃ中はのぞけないな」

「別にのぞかなくていいわよ」

「現場の状況をつかみたかったんだよ」

「あらゴメンなさいね」

どっちにしろ、雨戸が閉まっていたのはあたしのせいじゃない。