「広義さんが行方不明になった前日も、光子さん1人でしたか?」

「はい、夜7時ごろに訪ねてきました」

「その時、何か変わった様子は?」

「いえ、特に」

いつも通り、仁藤の妻と一緒に世間話に花を咲かせていたそうだ。

「光子さんは大きな声で笑ってましたよ。でもあの笑い声もしばらくは聞けないだろうなぁ」

達郎は唇を尖らせたまま、小さくうなずいた。

「もうひとつよろしいでしょうか」

「はい」

「鳥海広義さんは、完全に寝たきりだったんでしょうか」

つまり忍び込んできた賊に、全く抵抗できない状態だったのかと、達郎は訊いた。

「鳥海さんは全く動けないわけじゃなかったんです」

仁藤は膝の上で両手を組みながら言った。

「寝返りもうてましたし、手を使って体を起こすことも出来ました」

しかし自力で立って歩くことなどは無理だった。

「ましてや賊相手に抵抗するなんて、絶対に不可能だったはずです」

仁藤はそう断言した。