「土砂災害です。大雨で家の裏の山が崩れたそうです」

外出していた光子は難を逃れたが、両親は生き埋めになった。

「御両親の遺体が掘り出されたのは5日もたってからのことだったそうですよ。やり切れない話ですよね」

両親を失った光子は悲しみをふり払うかのようにして、故郷を離れた。

そして知り合いを頼ってここN県に移住。

哲夫と出会い、結婚したそうだ。

「自分が早くに両親を亡くしたせいか、義理の父親である広義さんには本当によくしていました」

仁藤は再び目頭を押さえた。

「土砂災害ですか…」

達郎が唇を尖らせた。

「ひとつ伺ってもよろしいですか」

「はい、何でしょう」

「光子さんが仁藤さんのお宅へ来る時、哲夫さんはいつもどうしていましたか?」

「どうしていたかと言いますと…」

「光子さんと一緒に、仁藤さんのお宅へ来ていたかということです」

「いえ、来る時はいつも光子さん1人でした」