「ええ。何度も繰り返すようですが、あの夫婦は本当に父親を大事にしていました」

息子夫婦の献身的な姿を思い出したのか、仁藤は軽く目頭を押さえた。

「最近じゃ、年金目当てで親が死んでもほったらかしにする連中がいるじゃないですか。そんな馬鹿どもにはあの夫婦の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいですよ」

憤懣やるかたないという口調で言った後、仁藤は息子夫婦の人柄について語りはじめた。

「哲夫さんは真面目で働き者、光子さんも働き者だが気さくな人でね、よくウチに遊びに来てましたよ」

診療所で看護士を務める仁藤の妻と気が合うらしく、よく夕食の残り物を届けに来ては、井戸端会議に花を咲かせていたという。

「昔あんなことがあったっていうのに明るい人でねぇ」

あたしの問い掛けに、仁藤は声を低くした。

「光子さんは山陰の方の出なんですけどね、30年ほど前に御両親をいっぺんに亡くしているんですよ」

「いっぺんと言いますと事故か何かで?」