「もうこちらに向かってもらっています」

あたしと北島警視がやり取りしている間、達郎は老人の遺体をじっと観察していた。

「気の毒に、だいぶ濡れちまってるな」

遺体は長時間ここにさらされていたのだろう。

体も下着もびしょ濡れで、薄い髪は頭にぴったり張り付いていた。

「首に絞められた痕があります」

捜査員の1人があたしたちにそう告げた。

指摘された箇所を見ると、確かに何かで絞められたような痕があった。

「こりゃ殺しですね。犯人はこの老人に顔を見られたんで、拉致したんですよ」

別の捜査員が言った。

「そして殺害して、この場所へ遺棄したんです」

だとしたらひどい話だ。

この老人が一体なにをしたというのか。

憤りを覚えたあたしは、今はまだ見当もつかない犯人に向かって唇を噛みしめた。

「北島警視、ご家族の方が到着いたしました」

また別の捜査員が来て言った。