「いいお天気だねー」


桜子はまぶたを閉じて、すうっと草花の匂いを吸い込んだ。


彼女の形のいい唇が微笑むのを見ながら、僕は訊いた。


「この公園、以前も来たことが?」

「ないよ。初めて」


大きな瞳を僕に向けて、彼女が言った。


「え。……じゃあなんで、こんな何もない公園にわざわざ……」

「お父さんとお母さんの思い出の場所なの」


桜子はそう言って、ひときわ大きな桜の木の下に腰をおろした。


「ちなみにこの場合のお父さんってゆうのは、拓人のお父さんじゃなくて、私の血縁上の父親ね」

「ああ、うん……」


僕も桜子に並ぶようにして木の下に座る。


「ふたりが出会ったのが、この公園なんだって。ずうっと昔、お母さんが話してくれたの。
普段はあんまり父親のことを私に話そうとはしない人だったから……子供心に私、すごく嬉しかったの覚えてる」


「どうして桜子のお母さんは、父親のことを隠したがったのかな」