まるで別人のようにすました桜子の姿が、少しずつ近づいてくる。


こちらに気づいているはずなのに目を合わさず、
凛とした顔で僕の前を通り過ぎてゆく。


その後ろ姿を目で追って、思わず僕は、プッと吹き出した。


……タグ、ついたまんまじゃん。


昨日クリーニングに出したときのタグが、
セーラー服の襟元からひらひらと顔をのぞかせていた。


まったく、最後の制服姿だというのに、おっちょこちょいな奴だ。


けど、

あいつらしいなあ……。



まわりの保護者たちは皆、嬉しそうな微笑みを浮かべ、
すでに涙ぐんでいる人もいた。

そして盛大な拍手で我が子を迎えている。


ここまで無事に育て上げたという喜びで、卒業する本人より嬉しそうだ。



僕は――


桜子と出会ってまだ一年足らずで、
別に彼女を育ててあげたわけでもないし、

正直、親のようには喜べない。


けれど、僕は、


僕自身の喜びのためじゃなくて、

桜子のために、今日という日を胸に刻みたかった。



いつか桜子が年をとった時、

少しでも多くの晴れやかな思い出を

誰かと共有できるように。






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