そんな桜子も、今日で高校を卒業する。


4月からはアルバイト先の飲食店で、社員として働かせてもらうらしい。

そこは小さな中華料理屋だから、たいした出会いもないだろう。


“さわやかで、意地悪なことを言わなくて、スポーツジムのインストラクターとかしてるような彼氏”

を見つけるまでは、もうしばらく時間がかかりそうだ。






校門前で桜子と別れ、僕は一足先に体育館の保護者席に向かった。


館内にはパイプ椅子が整然と並べられ、すでに大半が人で埋まっている。


はしの席に腰をおろした僕は、思わず身を硬くした。

ちらちらと向けられる周囲の視線に、気づいたからだ。


遠慮がちで、けれどあからさまな好奇心をもった視線。


まあ、仕方ないのだろう。
たしかに僕は浮いていた。


まわりの保護者たちは皆、40代や50代の親御さんばかりだ。

反して僕は、顔に刻まれたシワもなければ、白髪の一本も生えていない。


どちらかといえば、胸にバラの造花を飾って卒業生の列に並ぶ方がしっくりくるだろう。


しばらくすると館内に音楽が流れ、

「卒業生、入場」

とアナウンスが響いた。


そして大きく開かれた東側の扉からまっすぐに太陽が差し込み、シルエットの列が現れた。