桜子がこくりとうなずく。


「やさしいお父さんだったよ。
口下手で、ぶっきらぼうなところはあったけれど。
彼なりに精いっぱい、私を可愛がってくれた」


僕を見上げる桜子の目が、やさしい光で満ちている。


「私たちのお父さんは、本当に素敵なお父さんだったよ」


その言葉を聞いたとたん――


悔しいけれど、僕は目頭が熱くなって、あわてて上を向いた。


桜子の小さな手が、とん、とん、と僕の背中を叩いてなだめる。


「やばい」

鼻をすすりながら僕は言った。

「桜子。その、とんとんってやつ……やばい」

「どうして?」

「どうしてって。……その、つまり」


とん、とん。

やさしいリズムは続いている。


「……よけい、涙が出そうだ」


すると桜子が、クスッと笑って言った。


「泣かせてるんだよ?」


それでもう、僕はこらえきれなくなってしまった。