僕を見つめる彼女の瞳から、気丈そうな色がみるみる消えた。


彼女は表情を隠すようにうつむいて、今日あった出来事をぽつぽつと話し始めた。


家族の病状が悪化して、今にも息を引きとりそうなこと。


だけどどうしても最期を見届ける覚悟ができず、病室を飛び出してきたということ。


そんな自分勝手な自分が許せないこと。


どうせならとことん勝手な人間になりきって、現実から目をそらしてしまいたかったこと。



時々嗚咽しながら話す彼女の声に、僕は真剣に耳をかたむけた。


少しでも元気づけてあげたい
――そんな、柄にもない親切心で。


それは彼女がまれに見る美少女で、単純に僕の男心をくすぐったというのもあるし、

何より今の自分と彼女の立場が似ているということもあった。


「わかるよ」


最後まで聞いたとき、僕はなるべく優しい声でそう言った。


「俺も……同じだから」

「え?」

「俺の親父ももうすぐ息を引きとりそうなんだ」

「……だったら、すぐに病室に行かなきゃ…っ」

「それが行けないんだよ。だから、君と同じ」


僕は眉を下げて笑ってみせた。


――『俺の親父も、もうすぐ』


言葉にしてみると急に、父の死が現実的なものとしてのしかかってきた。