さりげなく置かれた彼女のトリートメント。

二本ならんだ歯ブラシも、
壁にかかったセーラー服も。


そう、それらは、
“ただそこにいる存在”なんだ。


ただいまと言えば、
おかえりと返してくれる存在――。



「俺も、抱きしめていい?」


いいよ、という返事の代わりに、僕を包む細い腕に、ぐっと力がこもる。


僕は両腕を伸ばし、その小さな体を彼女と同じ強さで包み込んだ。


下心だとか照れだとか、そんなものは不思議と感じなかった。

もっとナチュラルな、当たり前の衝動として、僕は彼女を抱きしめていた。


細すぎる肩のラインが、二の腕の内側にすっぽりおさまる。

彼女のやわらかい髪が頬をくすぐる。