「……桜子?」

「あのね……」

「ん?」

「ほんとは私、聞いちゃったの」

「何を?」


桜子はきゅっと唇をかんだ。


「さっき拓人、うなされながら寝言で”お父さん”って……」

「……」


僕が黙りこむと、桜子の瞳にみるみる罪悪感がにじんだ。


他人を傷つけたことに傷ついている顔。


そんな表情をさせたくなくて、僕はとっさに取りつくろうとしたけれど、

かんじんの言葉は何も出てこなかった。


「ごめんなさい……」

桜子がつぶやく。


「いや、大丈夫。……俺は平気だから」

言葉が、言ったそばから説得力を失っていった。


まるで喉が詰まったように、うまくしゃべることができなくて、

僕の声はあきらかに震えていた。


部屋は宵闇のような薄暗さに包まれている。


もう夕方なのかと思って時計の針を見てみると、まだ昼の3時前だった。