雪花-YUKIBANA-

「寝るよ。桜子は寝ないの?」

「眠くないの。なんでだろう」


桜子は首をかしげ、うーん、と唸った。

僕も同じように首をかしげて考えてみたら、すぐにピンときた。


「大丈夫だよ、桜子。よくあることだから」

「よくあること?」

「うん」とうなずいて、僕は彼女の肩に手を置いた。


「つまり、徹夜で起きていると、日付変更線どころか眠気までどこかに吹っ飛んじゃうんだ。
それどころかハイテンションになって眠れなくなる。
特に君みたいな、徹夜初心者はね」


「そうなの?」


桜子は新たな発見をした科学者のように、キラキラ輝く瞳を丸くさせた。


「そう。だから今君が眠くないのも、徹夜した者だけが経験するオプションみたいなもん」

「なんだか大人への第一歩って感じだね!」


いやいや、それはちょっと違うだろ。


と思ったけれど、桜子があまりに嬉しそうだから言うのはやめておく。


「そうだな。大人への第一歩だ」

「すごい!起きててよかった」


桜子がうっとりとした表情で叫んだ。


大きな瞳の中で、星がきらきらと踊っている。