桜子は僕と視線を合わせたまま、ゆっくりうなずいた。


「そう、うらやましいの。私には小さいころの写真なんかないから」

「……そうなんだ」

「たぶん、この家に来るときにぜんぶ捨てたのね。
本当のお父さんを思い出して、私が恋しい想いをしないように」


そう言った桜子の声には、みじんの卑屈さも感じなかった。


まるで老人が遠い青春時代の思い出を語るときのような、
ほんの少しの寂しさと、
そして清々しささえ感じさせる声だった。


「きっと……」

と僕はつぶやいた。

「きっと、かわいい子供だったろうね――」

――今と同じで。


そう、きっと肌が真っ白で、

おもちゃ売り場に並んでいそうなくらい、体が小さくて、


そして少しだけおませな、かわいい女の子だったのだろう。


僕の言葉を聞いた桜子は、恥ずかしそうに目をそらした。


「まあ……、拓人の子供時代には負けるんじゃない?」

「それはどうも」


桜子はおもむろに立ち上がり、テーブルを挟んで僕の向かいに座った。


さあ、パーティーを始めようよ、と彼女が言った。





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