ひどく恥ずかしいことを言わされている気分だった。


「……強いて言うなら」

「強いて言うなら?」

「桜子は“妹”だから……」


いもうと。


その単語を唇から発しただけで、僕の胸は、言い様のないむず痒さに襲われた。


温かいような、気恥ずかしいような。


たとえるなら、恋人の名前を初めて呼び捨てにするときのような。


「――なるほど。妹」


桜子は納得したように深くうなずいた。


「妹なら欲情したりしないもんね」

「うん」

「私は家賃の心配をすることなく、あの家に住み続けられるわけだ」

「うん。そして俺は敷金不要・家賃格安という理想の家を見つけた」

「たしかに名案だね」


お互いに都合がいいから一緒にいる。


そんなおかしな兄妹が存在するのかはわからないけれど、

僕らはイミテーションの家族として、たしかに助け合えそうだった。


「じゃあ、よろしくお願いします。お兄様」

桜子が僕に微笑みかける。


「こちらこそよろしく。妹殿」

僕も微笑み返す。


交渉成立だ。