桜子は、あの真っ白な部屋にいた。
白い壁と、白いシーツ。
僕の前から一度姿を消した彼女と、再会を果たしたあの病室。
ドアを開けて、
名前を呼ぼうとして、
そして僕は黙る。
彼女はうっすらと目を開けて、何もない天井を見上げている。
静かだった。
この建物の中に、僕らだけでいるようだった。
ベッドの横に膝をつき、桜子の手を握った。
確かめるように、ただ手をつないだ。
「ねえ」
桜子が言った。
「世界が終わるときの景色は、どんなんだろう」
穏やかな声。
一点の曇りもない、澄み切った声。
「さあ……俺にはわかんないな」
「きっと綺麗なんだよね?ものすごく、綺麗なんだよ」
小さい頃お父さんが買ってくれた色鉛筆、ぜーんぶ使っても描けないくらいにね。
そう言って、彼女は笑った。
「ねえ、拓人。私が最後に見る景色も、それと同じくらい綺麗かな」
「……どうして、そんなこと?」
「もしそうなら、いいなあって」
僕は横たわる彼女の肩に顔をうずめ、
何度も大きく息をはいた。
「――俺、子供の頃さ」
「うん」
「占い師から言われたんだ。
――将来、酒の飲みすぎか、寂しさが募りすぎて死ぬよ、って」
「うん、前に話してたよね」
クスっと笑い声が聞こえた。
「……俺」
僕は肩を小さくすぼめ、顔をくしゃくしゃにして、
彼女の体にしがみついた。
「俺は……桜子がいなくなったら、生きていられない……っ」



