「けどビックリした。
いきなり俺の横から、手が伸びてきたから」


新しい切符を買いながら僕は言った。


桜子は顔の前で両手を合わせて、僕を見つめた。


「ごめんね。お寺から歩いてる途中に、お金を持っていないことに気付いたの」

「うん」

「で、とりあえず駅まで来てみたら拓人がいたから嬉しくて」

「嬉しくて?」

「つい、勝手に押しちゃった」


どんな理由だ。


僕が無言で肩をすくめると、桜子は突然真剣な表情になった。


「恩に着ます、お兄様」


そう言ってぺこりと頭を下げる桜子。


図々しいなと思いつつ、その仕草を可愛らしくも思う。


おそらく、彼女は他人に親切にしてもらうという事が、とても上手なのだ。


少なくとも、僕よりはずっと。





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