「こんなこと言いたくないけど……」


手の動きを止めてマユミが言った。


「私、あんまり桜子ちゃんに対して、いい印象ないんだよね」

「え?」


僕の視線をかわすように、彼女は落ち着かない仕草でタバコを取り出す。


「だってさ、桜子ちゃんって借金あったんでしょ?短期間だけどうちの店で働いて、けっこう返せたんじゃない?
なのに、まるで店長を助けるために入店した、みたいになってるのが納得いかないっていうか……」


マユミはタバコを口元に持っていったまま、いつまでたっても火を灯さない。


「はい、お待ち」とカウンター越しに手が伸びて、イサキの塩焼きが置かれた。

立ち上るおいしそうな香りが、この場面には不似合いな気がして、居心地が悪くなる。


「この際だから、ハッキリ言っちゃうけど。
店長だって少しは引っかかるところがあったんじゃないの?
だから、距離を置こうって思ったんでしょ?」