――唇が、触れた。
少しでも躊躇したら、
大切にしすぎてしまいそうだったから、
奪うように口づけた。
――『桜子と離れるのなんか耐えられない』
語尾は彼女の唇とぶつかって、うまく発音されなかったと思う。
僕らはそっと唇を離すと、互いの瞳を見つめあった。
今までにないくらい近い距離に、桜子の顔があった。
驚きで止まった彼女の涙が、
またじわじわと目のふちに滲み、
こめかみの方に流れていった。
「なんで泣くんだよ」
「……嬉しくて」
「そっか」
再び唇を重ねた。
こんどは、さっきみたいに奪うようなキスじゃなくて、
もっとやさしく。
与え合う口づけ。
僕らは互いを分け合った。
胸はますます苦しくなり、それが甘さに変わっていった。
彼女の閉じた瞳。
長いまつげが涙で濡れていた。
――『……嬉しくて』
じゃあ、僕も、
そのせいだろうか。
こんなにも今、
泣きたい気持ちになっているのは。



