とっさに部屋を見回す。

誰もいない。


音は、上から聞こえたような気がした。


恐る恐る廊下に出て、細い階段を見上げる。


……暗い。


夏の湿った空気が重苦しい。

だけど二階を包む暗がりは、やけにひんやりと見える。

今にも襲ってきそうなほどの、あまりに濃い闇だ。



そしてそこに、二本の足を見つけた。



「うわあっ!」

「きゃあっ!」


僕の叫び声と、二階からの悲鳴が、ほぼ同時に響く。


上から降ってきたのは若い女の子の声だった。


「誰っ?!」

「い、以前ここに住んでいた者です」


僕は暗闇に向かってそう答えながら、違和感を感じた。


その女の子の声に、聞き覚えがあったからだ。


そして相手も僕に対して
同じ事を感じたらしい。



「……拓人?」


「え?」


ふいに名前を呼ばれ、僕は目をパチパチさせながら顔を上げた。


闇に浮かぶ白い足が、ゆっくりと階段を下りてくる。


すべらかな肌に電球の光が届き、

長すぎるまつ毛の影を落とした。


「……桜子?」