彼女の瞳に僕が映る。

僕が彼女をじっと見つめる。


そのことが、こんなにも幸せで

胸をいっぱいにさせることだったなんて。


「ただいま」


先にしゃべったのは僕だった。

たった四文字の言葉を発しただけで、胸が詰まりそうだった。


彼女の口元が、ふんわりと微笑んだ。


「……おかえりなさい」







彼女の体調不良は本当だったらしい。


5日前から熱を出したため、
トイレや台所から一番近いこの居間で療養していたそうだ。


話したいことはたくさんあったけど、

その前にまず僕はおかゆを作ったり、
ぬるくなった氷まくらを取り替えたりした。


「もう熱もほとんど下がったから大丈夫」

と桜子は言った。


「いいからおとなしく看病されとけって」

「私より拓人の方が、手当てが必要なんじゃない?」


僕の傷やあざを見て、心配そうに言う桜子。


「俺は平気だよ」

「それってケンカ傷?拓人らしくないね」


まったくだ。
僕らしくない


とことん落ち込んでみたり、
乱闘騒ぎを起こしたり。


こんな僕らしくない僕は、今まで見たことがない。