10年ぶりに訪れたこの場所で、僕はタイムスリップに近い感覚を覚えた。


長屋は少し古くなっていたけれど、
それでも聞こえてくる音や、ただよう香りは同じだ。


あかりのもれる部屋から、それぞれの家庭がそれぞれの夕食のにおいを放ち、

団らんの時を楽しんでいた。


僕はゆっくりと足を進め、長屋の一番奥の玄関に向かった。


雨に濡れた木の表札は、10年前と全く同じ物だった。


大塚。


はっきりと、そう書いてある。



引き戸に触れてみると、手ごたえなくそれは開いた。


親戚の誰かが鍵も閉めずに出たのだろうか。

不審に思いながらも玄関を上がる。


家の中は、気味が悪いほどに片付けられていた。


丁寧にたたまれた衣類は部屋のすみに置かれ、
皿は食器棚の中にあった。


10年前では考えられないことだ。


あの頃、皿や湯飲みは人を傷つけるために宙を飛ぶものだったのだ。


その時突然、床のきしむような物音がして、僕は飛び上がった。