こないだのすっぽかしの件のあと、僕はミドリを食事に誘った。


それをきっかけに、ミドリがちょくちょく店に顔を出すようになったので、

僕らの距離はすぐに縮まっていった。



「ねえ、最近はお店の方、どう?」

ミドリがたずねた。


「順調だよ。10代のかわいい新人が増えたからね」

「その新人さんたちって、やっぱり人気あるの?」

「うん、かなり固定客つかんでるなあ。
うちの人気ベスト10、ほとんど新人の子たちだし」

「ふーん」



正直、僕は少し調子に乗っていたと思う。


新人たちのおかげで店は繁盛し、
しかもプライベートでは、ミドリと楽しい恋愛を始めたばかり。


しばらく地味な生活が続いていた分、
僕は今のこの状況に舞い上がっていた。







すっかり夜が明けた頃帰宅すると、居間でうたた寝する桜子を見つけた。


彼女のかたわらには、チラシの裏に描かれた落書きのようなデッサンがあった。


「……?」


拾いあげて見てみると、それは鳥の絵だった。

ベランダの巣でもイメージして描いたのだろうか。


親鳥のくちばしをついばむ、小鳥の姿。


素人の僕でもわかるくらい、
繊細で、かつ味のあるタッチで描かれていた。


「……拓人?」

「ああ、起きた?」


まぶたをこすりながら桜子が体を起こした。


頼りなげな細い肩に、僕は自分の脱いだジャケットをかけてやる。