「あのさ、俺、実習で産婦人科に行ったことがあるんだ」


「はあ……」


「当然そこではいろんな家族を見てきたよ。
あのな、家族っていうのは二通りある。
最初から血で繋がった家族。
そしてもうひとつは、わかる?」


「夫婦……ですか」


正解!とおどけた口調で言って、男は両手を打った。


「つまり、あんたが桜子ちゃんのことを語るときの顔は、同じ家族愛でも後者の方ってわけ。
もちろんあんたらは夫婦じゃないから、ピンと来ないだろうけど」


「……来ないですね」


「恋が育む家族愛も、あるってこと」


なるほど。


わかったような、わからないような、

微妙な気持ちを僕は日本酒の味でごまかした。


「あ、言い遅れたけど俺の名前、ヨシヒロっていうんだ。
義理の義に広いで“義広”」


「……成瀬拓人です。拓く人と書いて拓人」


「男前は名前まで男前だなー」


彼の笑顔につられて、僕からは自然に笑い声がもれていた。


どうやらこの義広とかいう彼は、
相手に心を開かせるのが、相当うまいタイプの人間らしい。