若い男女が周囲の目も気にせず、言い合っていた。


「お前、こないだはよくも俺をだましやがったな!」


「はあ?誰よあんた、知らないよ!」


「ふざけんな!
俺がシャワー浴びてる間に、財布盗んで逃げやがったくせに」


ひと目で事情のわかるやりとりだった。


まわりの人間は一定の距離をとりつつ、
その場に立ち止まって離れようとしない。


みんな、他人のいさかいは嫌いじゃないのだ。


こんなくだらないもめ事こそが、
週末の夜の証だから。


見たところ、男の方は僕と同い年くらいだろうか。

手には缶チューハイを持っていて、すでにかなり酔っているようだ。


女の方は、もう少し若いように見える。


僕はすぐに興味をなくし、人だかりを抜けて歩き始めた。


そのとき――


「ちくしょう!」


ひときわ大きな怒鳴り声が聞こえたかと思うと、

次の瞬間、後頭部に衝撃が走っていた。


「……っ?!」


痛いというよりは、熱いに近い。


まばたきすらまともにできず振り向くと、

僕の足元にチューハイの空き缶が転がっていた。


「あ」


間抜けな声をだしたのは、例の男だった。


唖然と僕を見る男の手からは、
先ほどの缶チューハイが消えていた。



……なるほどね。