「けどその男に対して愛情があるようには、俺には見えなかったけどな」


「はあー、店長ってほんとお人よしね」


マユミは唖然とした顔で僕を見上げると、
親指と人差し指で円を作った。


「けっきょくはお金の問題なんだよ。
愛情うんぬんの話じゃなくてさ。

愛していないとか偉そうなこと言ったって、
食べさせてもらってる以上、けっきょく依存してたってわけでしょう?」


年下のマユミに説教っぽく言われ、僕は小さくなる。


たしかに、マユミの言っていることはもっともだった。

そして、ミドリ自身それはよくわかっていたと思う。



人は依存する。


愛だとか情だとか、

そんなものとは別の部分で依存する。


だからミドリも言ったのだろう。


――『私は私自身を生きたことなんか、
ただの一度もないんだよ』


僕はどうにもやりきれない気持ちになる。


「で、そんな状況にある友人を、どうしてマユミは突き放すわけ?」


「見苦しいのよ。
あの子、いまだに社長と復縁しようと必死なんだから」


貧乏揺すりしながらマユミが言った。


風俗を始めてから、自分の体で金を稼ぐことの苦労や、
誇りを覚えたマユミにとって、

今のミドリは甘ったれているとしか思えないそうだ。


「見てるとイライラしてきてさあ」


けれど僕は、
マユミがミドリを疎んじる、本当の理由を知っている。