「……ああ。そうゆうわけで今うちで寝かせてるから。
……ああ、悪いな。じゃ」


受話器を置くと、僕の唇からは無意識にため息がこぼれた。


居間から続く僕の部屋で、桜子は椅子に腰かけている。

そのぼんやりした視線の先には、
深く寝息をたてて眠るミドリの姿。


「すぐに友達が迎えに来てくれるって」

「……そう」

「んんー……ん…」


うめき声をあげながらミドリが寝返りをうつ。


ベッドからぶらんと垂れ下がったミドリの細い手を見て、桜子が言った。


「きれいなマニキュア」


それはミドリが大好きだと言った、鮮やかな赤だった。


こんな風にボロボロになるまで酔いつぶれていても、
彼女の爪は今日もつややかに光っていた。


「桜子……なんか、ごめんな。
今日は君の記念日なのに、面倒なことになっちゃって」

「ううん、平気」


桜子は立ち上がり、ニコッと笑った。


「お人よしの拓人がほっておけるわけないもんね」