はるか昔、荒ぶり猛る灼熱の劫火に世界は融けただれ、形を得ることもなかった。

 けれど、その凄まじさゆえに炎を愛し、ためらいもなく我が身に抱いたのは、蒼き氷の女神。炎が我が身を焦がすことになることすらかまわずに、身のうちに取り込んだ。

 灼熱の炎は氷の女神の力に相殺され、世界は冷え固まり形を得た。
 そうして、女神は炎との子を産んだ。
 それがフィアールのはじまり。そして、世界のはじまり。

(だから、私たちはいつでも炎に惹かれる。炎を愛した女神の子だから……)

「お兄様」

 おそるおそると言った感じで、シャリアが話しかける。
 迷いのない冴え冴えとした青い瞳が、もの問いたげに妹に向けられた。

「草原を出るときに、お母様に頼まれたの。ドラゴン退治の魔女の相手をするのなら必要だろうって」

 シャリアは小さな革袋を懐からとりだすと、兄に手渡した。

「これは」

 中のものを確認して、ロランツが目を瞠った。

「もともとお兄様のものだから、使えるはずだって。使い方は……」

「わかるよ」

 手の中のものを、ロランツは何とも感慨深げに見つめていた。ひどく懐かしい友人にでも出会ったような。

「また、会えるとは思わなかったな」

「お兄様……」

 そんな兄の姿に、シャリアがふとため息をもらしたときだった。

「お待たせしました」

 戸口からラムルダが姿を現した。