月のない晩だった。
 窓を叩く風の音に、メディアは目を覚ました。

 いや、そう思った。

 バルコニーに続く大きな窓の外に、たしかに人の気配がする。
 目を凝らして見れば、硝子越しに人らしき影が見える。

「だれ?」

 誰何の声に影は答えない。
 メディアはベッドから起きあがり、裸足のまま床を渡る。

「だれなのよっ!」

 窓を押し開けると、そこにいたのは人間ではなかった。

 わずかな星明かりに照らし出された白い端正な顔は、神経質そうなきつい線で作られていた。

 瞳はこの世の全ての光を吸収したかのような、闇よりも深い黒。絹糸のような黒い髪が、裸の肩を覆っている。
 
 足には、ぴったりとした黒いズボンをはいているが、上半身は何も着てはいない。胸を覆う筋肉は、彫像のように見事で、いやでも目を引いた。

 ロランツと同じくらいの年の人間の青年に見えた。
 その背中に巨大な黒い翼がなければ。