「ロランツ! いい加減に下ろして」

 メディアを抱えたままロランツは後ろを振り返った。

「ああ、そうだな。餌はおいてきたし、追っ手もかからないみたいだ」

「え、餌って?」

「シャリアだ。しばらくは女官長も妹であそんでるだろう」

 平然とした顔で実の妹を餌呼ばわりとはあの妹も変わっているけど、やはりロランツもじゅうぶんに変わっている。離れて暮らしていても兄妹は兄妹だ、などと自分のことはすっかり棚に上げてメディアは思わず感心してしまう。

 変わっていると言えば、その大元締めは当の国王で。おもしろければなんでもよし、という彼の信条にはメディアでさえ頭を抱えてしまうものがある。

 女官長や侍従長などの王家の主立った側近のものたちが、意外にすんなりとメディアを受け入れた理由がわかったような気がした。

 侍従長なんて王子がはじめて興味を見せた女の子だと、涙を流さんばかりに喜ぶし、女官長はお后教育に燃え出すし、きっと大きく反対に会うだろうとあの頃は期待していたので拍子抜けだったが、これほどそろいもそろって風変わりな王一家である。今更、魔女の一人や二人、増えた程度で驚きもしなかったのだろう。