うだるような夏の暑さも通り過ぎ、肌寒さを感じる秋の夜。


八階建てのマンションの屋上で一人の青年が柵にもたれかかり、月を眺めていた。


今宵は満月だ。その月の光を受けた青年の赤に近い茶髪が、暗闇の中一層輝いて見える。


突然、その青年の背後に一つの影が動いた。少しずつ、少しずつ、青年に近づいてゆく。しかし、青年は月に目を奪われており、全く気付いていない。


ドンッ!!


次の瞬間、青年は驚きに目を見開いたまま、数十メートル離れた地面にうつぶせに倒れていた。頭から大量の血を流して。


彼を突き落とした影は柵から下を覗き、彼が倒れているのを確認した。そして、ゆっくりと屋上の出入り口に向かい、闇の中に消えていく。


その出来事を、青白い月だけが見ていた。



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翌朝、そのマンションの前はパトカーの赤い光と人だかりで混雑していた。


青年が倒れていた付近一帯と屋上の入り口には、人の出入りを禁じるテープが貼られ、警官達がせわしく動いている。


そのテープの内側でただ一人、マンションの壁にもたれかかって腕を組み、現場を傍観している者がいた。昨日、まさにこの地面に倒れていた青年だ。


彼はこげ茶色の瞳を細め、現場から運び出されていく自分の遺体を冷たい目で見送っていた。


「他殺か自殺か、はたまた事故か。こりゃ、ちゃんと調査しないとわかんねーな」


やる気のない刑事が、ボソッと呟くのが聞こえた。


青年が堅い表情のまま振り返り、現場を後にしようとした、その時だった。


鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離に突如、黒猫が現れたのだ。


青年は驚きのあまり、完全に思考が停止してしまったらしい。ただ目を見開き、黒猫を茫然と見つめていた。


その黒猫は背中に生えた羽を使ってパタパタ飛んでいる。黒猫の三つの尻尾のうちの一つが青年を指していた。


「みーっけ!!」


黒猫はそう言うと、嬉しそうに残りの二つの尻尾を振った。そして、今度は違う尻尾が青年に向かって伸びる。


「うーんと……瀬谷優雅<セヤ ユウガ>。十八歳。死因は、突き飛ばされた事による転落死!!」