僕は大好きな彼女と二人で海沿いを自転車で走っていた。



夏の風が潮のいい香りを運んでくる。



僕らは風を体に絡ませながら、さらにペダルをこいでいく。



「ねぇ!!」



先に行く僕のすぐ後ろから彼女の声が聞こえた。



喉でも渇いたのかな。



「何ー?」



車の騒音に掻き消されないように、僕は声を少し張り上げて言った。




「もうさ、この辺りでよくない??みんな泳いだりしてるよ??」



「ここじゃいやなんだー!!見せたい取って置きの場所があるんだよー!!」



僕はなんか嬉しくなってペダルをこぐスピードを少し早めた。



「ち、ちょっと!!」



彼女も遅れまいと必死に自転車をこいだ。





もう三十キロはこいだだろうか。



朝出発してもう陽が頭の上にある。



今年は猛暑らしい。



温暖化のせいか?



そんなシリアスな事、今は考えたくもない。









僕らは付き合って丁度二ヶ月目だ。



大学生の春、一目惚れした僕は迷わずアタックした。



駄目元だった。



彼女ほどの人間なら男を選べる立場だろう。



それほどに容姿端麗で…




人間として美しかった。




僕は目を丸くした。



彼女はすんなり交際を認めてくれたのだ。



あの時の驚いた僕の顔といえば…



思い出しただけで顔から火を噴きそうだ。










途中自転車を止めて喫茶店によってみる。



昔からあるような寂れた感じが僕達の心をくすぐったのだ。



中は風邪を引きそうなほどクーラーで冷え切っていた。



「ご注文の方お決まりでしたらお伺い致します。」



胸の辺りに名札をつけたアルバイト店員がオーダー表をもってやってきた。



「じゃあ…」



「アイスココア二つ下さい。」



「かしこまりました。」




店員はそれだけ言い残して去っていった。