全ての授業が終わり、蒼依が帰る準備をしていると、後ろから肩を叩かれた。美砂だ。


「蒼依、今から買い物行こうよ! 美砂、いい店見つけたんだ!」


美砂の誘いに、蒼依は「いいよ」と笑顔で快諾した。すると、美砂は大喜びでロッカーへ鞄を取りに行った。


蒼依と美砂の会話を前の席で聞いていた恭が不思議そうに問い掛ける。


「あれ? 今日水曜だよな。蒼依、塾じゃなかったっけ?」


恭の質問に、蒼依がバツの悪そうに苦笑いをした。


「……たまにはいいでしょ。勉強ばっかじゃ息詰まるし。気分転換だよ」


「サボりかよー。おばさんに言い付けるぞ?」


「お母さん、どうせ仕事だもん。今日遅くなるって言ってたし、恭が黙っててくれたらバレないよ!」


蒼依は「チクるなよ」という目で恭を威圧し、美砂と共に教室を出ていった。


――小さい時から、ずっと頑張ってきたんだもん。最近成績も落ち着いてるし、ちょっとぐらい休憩したってバチあたらないでしょ。


蒼依の心をチクチクと刺す罪悪感も、美砂と買い物をしているうちにしだいに薄れていった。




存分にショッピングを堪能し、購入した物を両手一杯に下げていた美砂が、満足げに口を開いた。


「いっぱい買えたね! 晩御飯どうする? 何か食べよっか?」


「んー……家にご飯あるから、そっち食べなきゃ。塾行ってないのバレちゃうし。そろそろ帰らなきゃまずいかな」


蒼依が、携帯で時間を確認しながら言った。時間は、塾の終了時間に刻々と迫ってきている。


「そっかぁ。残念」


悲しそうにうなだれる美砂に、蒼依が申し訳なさそうに両手を合わせた。


「ごめんね!……あ、じゃあ明後日にご飯食べに行こうよ。明後日なら塾ないし。美砂が好きなものでいいよ」


「やった! 美砂、パスタ食べたい!! ドタキャンなしだからね」


先程の残念そうな顔から一転、嬉しそうに目を輝かせる美砂に別れを告げ、蒼依は自宅へと歩き出した。


――楽しかったな。気分転換も出来たし、また明日から頑張んなきゃ。


そんな事を思いながら歩いていると、道の先に大きな喫茶店が目に入った。つい先日、新しくオープンしたものだ。