蒼依が階段を駆け登って先程の声がした部屋へ飛び込むと、一つの影がむくりと起き上がった。その姿を見た蒼依は仰天し、思わず叫んだ。


「恭!?」


長年の幼なじみの姿を見間違うはずもない。そこにいたのは、間違いなく恭だった。


「えっ!? ……蒼依!?」


恭は後頭部を押さえながら驚いたように蒼依を見つめた。どうやら頭を強く打ったらしい。


「やっぱり……恭の家から声が聞こえたから」


蒼依がそこまで言ったとき、隼人が部屋へと駆け込んできた。


「松下?」


隼人が信じられないという顔をしていたが、恭は真っすぐに蒼依だけを見ていたため隼人の存在に気付いていない。


「お前、どこ行ってたんだよ!探したんだぞ!?」


恭が蒼依に抱きつき、涙目になりながら言った。


「ちょ……なんで恭がここに?」


蒼依が混乱しながら尋ねたが、恭は蒼依と再会できた感動で全く聞いていない。恭は昔からこうだ。変なところで涙もろくて、人の話を全く聞かない。


一向にいきさつを説明しようとしない恭に、とうとう蒼依がキレた。


「あーもー!しゃんとしろ!!」


蒼依の怒鳴り声に、恭がびくつきながら離れた。しかし、恭は蒼依の怒りを特に気にする様子もなく、嬉しそうに涙を拭いながら微笑んだ。


「あー、この怒鳴り声も懐かしいー!!」


恭がそう言った直後、イラついているような低い声が響いた。


「……いい加減、俺のこと無視すんのやめてくれない?」


隼人が腕組みしながら、しかめ面で二人を見つめていた。その言葉でようやく隼人の存在に気付いた恭が、再び目を輝かせた。


「あれ、桐生!? お前も久々だなぁ!」


恭が隼人にも抱きつこうと手を広げて近づいたが、隼人はそれを軽く避けながら尋ねた。


「松下……お前、なんでこっちに来たんだ?」


「こっちってなんだよ?ここは俺の部屋だぞ?」


「ここは、お前が今までいた部屋じゃない。異次元に存在するお前の部屋だ」


隼人が素っ気なく答えた直後、白い鳥が封筒を持って部屋の窓から舞い込んできた。その鳥は封筒を恭の目の前に落し、再び窓を抜けて飛び立った。