「そっかぁ。Separate Worldってどのぐらいの面積があるのかな?」


ふと疑問に思い、蒼依が隼人に問い掛けた。隼人は少し考えるように視線を落としたが、やがてゆっくり話し出す。


「端から端まで行ったわけじゃないからハッキリはわかんねぇけど……多分俺達が暮らしていた県内だけじゃねぇの?」


「ふぅん。じゃあ隅々まで調べ回るのはかなり大変そうだね」


まだまだ先は長いのか……と、うなだれるようにため息をつきながら蒼依が言った。




しばらく歩いていると、段々と見慣れた景色に戻ってきた。蒼依の家の近所まで歩いてきたらしい。


――なんか、こうやって制服着て歩いてると、元の世界に戻ったみたい。時間もちょうど登校してる頃だし。


蒼依は少し懐かしそうに辺りを見た。立ち並ぶ家々も風にそよめく木々も……景色は何一つとして変わらない。


しかし、毎朝学校に行く時にすれ違う若い会社員の男性も、家の前を掃除している顔見知りのおばさんもどこにも見当たらなかった。


通勤ラッシュで込み合っているはずの車道には車の影もなく、嫌に広く感じられる。いつも排気ガスを吹き掛けてくる車さえも愛おしく思えるほど、辺りは物足りなさに包まれていた。


大人がいない光景は……この上なく"異様"だった。


突然、蒼依が足を止めた。そして、何事かと振り返る隼人に向かって、思い付いたように声を張り上げる。


「ちょっとだけ、私の家に寄ってもいい?この近くだから!」


「なんでだよ」


「着替えたいの。制服だと動きづらいんだもん」


蒼依が自分の制服を指差しながら言った。短いスカートでは大きな動きが出来ないし、何よりローファーで長時間歩くのはかなり辛い。


「しょうがねぇな。じゃあ三分で……」


「十分で戻ってくるから!」


蒼依は、隼人の言葉を無理矢理遮って言った後、反論される前に家に向かって駆け出した。


数分と立たないうちに蒼依は自宅にたどり着いた。そして、玄関のドアノブに手をかける。


「ただいまー……」


返答がないのは分かりきっているのに、つい口から出てしまった言葉。それが家の中に響き、蒼依の胸に虚しさが広がる。