「甘えんじゃねぇよ。離せ」


「もっと色々教えてくれなきゃ全然わかんないよ!」


せがむ蒼依に、隼人が気だるそうに口を開いた。


「この世界の構造は、全部現実世界と同じだ。スーパーに行けば食材が並んでいるし、服屋に行けば服が手に入る。管理局が管理しているせいか、それが無くなる事はねぇよ」


隼人は数日間で得た情報を一気に話し終えると、蒼依を見下ろしながら言った。


「これだけ教えれば、自力で生きていけるだろ。さっさと行けよ」


「や、やだ!こんな変なとこに一人でいたら頭おかしくなっちゃうよ!……桐生、元の世界に帰りたいんでしょ?私も帰りたいし、目的が同じだったら一緒にいてもいいよね!?」


蒼依は必死に隼人を説得し、半泣きですがりついた。てこでも隼人から離れないつもりだ。


隼人はあからさまに嫌な顔をしたが、蒼依の執念にとうとう折れた。


「勝手にすれば。けど、足手まといにだけはなるなよ」


隼人は、自身の腕を掴む蒼依の手が少し緩まった瞬間をついて腕を振り払い、さっさと歩き出した。




どれぐらい歩いただろう……。行ったことのない団地に入り、辺りは見知らぬ景色へと変わっていた。


「ねぇ、どこに行くの?」


「俺の勝手だろ。あんたに関係ない」


ぷいっとそっぽを向いて歩き続ける隼人に、蒼依は不快そうな目を向けた。


――桐生って素っ気ないなぁ……。もうちょっと話しやすい性格ならいいのに。


蒼依が呆れのため息を着いた途端、隼人がぴたっと足を止めた。隼人の後ろを歩いていた蒼依が顔を上げると、そこには和風の大きな家が一軒建っていた。


「何、ここ?」


「俺の家」


「へぇ…………え!? うそ!?」


目の前にそびえ立つその家は、他の家の面積の倍は悠に越えているだろう。あまりの大きさに他の家が圧倒され、縮こまって見える。


――もしかして、桐生の家って……かなりのお金持ち?


信じられないという顔でその家と隼人を交互に見る蒼依を無視して、隼人は当然のように門を開けて中に入っていった。