その頃。
一島邸に、一通の郵便が届いていた。

美音子がカナダで滞在していたホテルから、美音子が発った後に届いたとメモ書きが添えられて。

入っていたのは、一島徹が美音子に送った、エアメールだった。



『美音子へ

急にカナダに行けなんて言って、済まなかった。

君は薄々感じていたかもしれないけれど、社内で少し不穏な事態が起きていて。

取り越し苦労だといいのだけれど、君が万が一でも危ない目にあったらいやなので、カナダに急遽飛んでもらうことにしたんだ。

惠ちゃんにはロンドンに行ってもらうことにした。

事情を話してないから、本人は嫌がってるけど。


この手紙が着く頃にはもう報道されているかもしれないが、社内で不正事件が発覚したので、近く公表することにした。

責任をとって、社長を辞めることになるかもしれない。

そしたら、君の憧れの、「あまり歩き回らなくて済む家」をカナダ辺りで見つけて、二人で静かに暮らそうか。

そのほうが、今より幸せかもしれないね。


全てが無事に終わったら。

惠ちゃんにほんとのことを全部、話そうと思う。

「何を今さら」と、許してはくれないかもしれないけれど。

もっと早く話すべきだったと、今は後悔している。

人生は、いつ何が起こるか分からない。

大切な人に、大切だと思う気持ちを、きちんと伝えておくべきだった。


美音子と惠ちゃんは、僕の愛する大切な人。

次に会ったときに、きちんとそのことを伝えたいから、

二人には、そのときまで元気でいてくれないと困る。

カナダはもう朝晩さむいだろうから、風邪をひかないように。


   徹  』