「・・・あの件のことでしたら、私は誰にも口外など・・・」

「どの件のことだ?」
一島社長が、二宮を見下ろす。
さっき星野とヘラヘラ喋っていたときとは別人のように、顔つきが豹変していた。
その目つきは背筋に震えが来るほど冷たくて、二宮は自分が口にしてはならない事を喋ったのだということを一瞬で理解した。

「・・・申し訳ありません」

「分かったら、もう話は終わりだ。さっさと行きたまえ」
一島社長は、二宮に背を向けドアに向かう。

その後ろ姿を、二宮は睨みつける。
不本意な人事異動に従わなければならない怒りに、握られた拳が震えた。

二宮は、机の引き出しにそっと手を伸ばした。

一島社長が、ドアを開けた。
「さあ!早く行け!」

そのときだった。
乾いた破裂音が、室内に響いた。

立て続けに、3発。
少し間をおいてから、念を押すように、もう3発。

時計の針は、午前8時25分を指していた。