二宮は、しばらく黙っていた。
あまり話したくなさそうだったが、秋の夜の冷たい空気が彼の重い口を開かせた。
「・・・私は秘書です。同じ場所にいたのに社長を守れなかったなんて、秘書の恥ですから」
悔しそうに口を一文字に結び、視線を地面に落とす。
二宮惠一が、初めて見せた表情の変化だった。
その言葉に、西刑事が今日目にした、秘書・二宮惠一の凄まじいまでの仕事ぶりが重なる。
突然振られたロシア語の電話を、難なくこなし。
裏道大爆走。
でも、夫人を乗せれば、ワイングラスすら倒れないくらい静かな安全運転で。
社に戻れば、複数の電話対応をしながら、同時に別な仕事もこなしていた。
今の二宮の話が、全て真実とは思わないが。
少なくとも、秘書という仕事に対する二宮のその真剣な思いだけは、嘘偽りはない。
西刑事は、そう思った。
そのとき。
ふと、上を見上げた二宮が、つぶやいた。
「危ない」
次の瞬間、二宮が二人に全力で体当たりを食らわせた。



