「マスコミも、私を疑ってるようですね」

センチュリーの運転席でハンドルを握る二宮。
車載テレビが、一島社長殺害事件の続報を伝えている。

「・・・元秘書と人事を巡り、数日前から口論になっていたという証言もあり、警察でさらに追及しています・・・」

会社から出てくる二宮を望遠レンズで隠し撮りしたような映像が、繰り返し流されている。
一応顔の部分がモザイク加工されているが、完全に犯人扱いだ。

「私が逮捕されたら、この映像をモザイク外して使うんでしょうねぇ」

二宮は他人事のように涼しい顔でテレビを覗き込む。

というか・・・頼むから前見て運転してください。
地球のために相乗りして尾行(この状態をもはや、「尾行」と呼ぶのはどうかと思うが)を続けることになった西刑事は、さっきからこの車に乗ったことを後悔していた。

車は今、本社社屋から成田空港へ向かう正規ルートでは明らかにない、狭い生活道路を爆走している。
両側の塀に手が届きそうなほど細い道幅の両側に、盆栽が置かれていたりオシメが干されていたり、お爺さんがのほほんと座っているような路地だ。ここを通らなければ空港に行けないのなら、一島重工株式会社は絶対に社屋を建てる場所を間違えている。

「スピード違反で、現行犯逮捕しますよ」
西刑事は、自分が香港カポックではなく警察の人間であることを二宮に思い出してほしくて、そう言ってみた。

二宮はスピードを緩めない。
「ここには制限速度の表記は、ありませんが?」

確かにそうですが。
それは、この道路を車が走ることを想定していないからではないでしょーか。

「それにしても、すごい運転技術ですね。昔走り屋だったとか?」
スピード超過はともかく、この狭さの道を風に揺れるオシメにすら触れずに走り抜けるのは、確かに並大抵の技術では成し得ない業だ。

「秘書の通常業務に過ぎませんよ」

西刑事の賛辞を軽く交わした二宮が、バックミラーをちらりと見る。
このスピードに、負けずに付いてくるライトバンが一台。

「・・・」