「それなら、私が」
西刑事が戸口に向かう。

「刑事さん。あの金魚が幾らするかご存知で、そんなことを?」

「え?」
西刑事の目にはどう見ても、祭りの屋台で売られているようなごく普通の金魚にしか見えない。

「社長は大の魚好きなんです。中でもこの金魚はイトウニシキという大変に珍しい金魚で、わざわざ山形まで行って買い付けてきたものです」

「はぁ」

「餌が何種類かあるので、その日の調子を見てどれを与えるか決めなければならないのですが」

「原田さん、どうします?」

「めんどくさいから、入らせろ」

「失礼いたします」
二宮は室内に入ると、水槽の前で腰を落とし、赤い金魚をじっと見る。

「・・・」
眉間にしわを寄せ、今度は、指を水槽のガラスにつけた。
金魚はちらりとその指を一瞥する。

「・・・それで、調子が分かるんですか」

「えぇ。今日は、かなり調子が悪いです。昨日から水槽の外が騒がしいので、ストレスを感じているようですね」
二宮が、非難がましく西刑事を見た。

「え」

「イトウニシキはストレスに弱い魚なので、水槽の周りではできるだけお静かに願います」
二宮はそう言うと、引き出しから金魚の餌を出して上からイトウニシキに与える。

「すごいもりもり食べてますけど」

「人間も、ストレスで過食症になる人がいるでしょう?」

「ソレモソウデスネ」
西刑事は、イトウニシキのストレスにならないよう、小声で答えた。

「ところで」
金魚の餌を引き出しにしまいながら、二宮が言った。

「お二人は、私の事を疑っていらっしゃるのですか?」